・・・この本は、古銭学の入 門書ではない。著者は、古いコインの持つ美に魅せられた人で、コインを貴金属の台に嵌め込んで装飾品に造った。目立たない小さな貨幣を立派に正装させて舞 台の中央に立たせたのだ。ある点、これはダイヤモンドよりもルビーよりも貴重な宝石といえるだろう。このジュエリーをつける人は、歴史の重みを身にまとう のである。ふと指輪を見て、はめられたコインに刻まれた横顔がどんな人だったか、動物はどこの町のシンボルだったかに思いを致す時、一時だけ異次元の空間 がぽっかり口を開け、持ち主の心は自然にコインがつくられた古代へといざなわれる。どのコインもその背後に膨大な人々の歴史を担っている。興味深い物語の 宝庫なのだ。その意味で、この本に載せられたジュエリーは単なる宝飾品の域を超えた知的な装身具、一種の小さなタイムマシンのようなものと言える。・・・
荒井通子 寄稿(古代へいざなうもの)より |